
「チャットで聞きたいことがあったのに忘れた……。」
「部屋に入った瞬間、『何を取りに来たんだっけ?』となる。」
誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
「なんでこんな大事なことを忘れるんだ!」と自分を責めたくなりますが、実はこれは脳が正常に働いている証拠なのです。
人間の脳は「覚える」より「忘れる」ことが仕事
私たちは「記憶力が良い人=脳が優秀」と考えがちですが、実際の脳は少し違います。
脳の大切な仕事は、不要な情報を捨てること。
もし朝から見たもの、聞いたもの、読んだものをすべて記憶し続けていたらどうなるでしょう。
信号待ちで見た車のナンバー。
コンビニで流れていたBGM。
隣を歩いていた人の服装。
そんな情報まで全部覚えていたら、本当に必要な情報を探し出すだけで大変になってしまいます。
だから脳は毎日、大量の情報を整理し、「これはいらない」と判断したものから消していくのです。
つまり、人間は忘れる能力があるからこそ、考えることができるとも言えるでしょう。
「チャットで聞こう」はなぜ忘れる?
では、どうして「あとで聞こう」と思ったことは、あんなにも簡単に消えてしまうのでしょうか。
理由はワーキングメモリという脳の「作業机」のような場所にあります。
思いついた質問は、一度この机の上に置かれます。
ところが、その直後に
- スマホを見る
- ドアを開ける
- 誰かに話しかけられる
- 別のことを考える
こうした新しい情報が入ってくると、机の上はすぐにいっぱいになってしまいます。
すると、最初に置いてあった「あとで聞こう」が机の端から落ちてしまうのです。
つまり、「忘れた」のではなく、一時的な作業スペースから押し出されてしまったという方が近いのかもしれません。
なのに恥ずかしい思い出は忘れない……
一方で、
「学生時代にみんなの前で転んだ。」
「プレゼンで言い間違えた。」
そんな何年も前の出来事は、なぜか忘れられません。
これは感情が強く動いた出来事ほど記憶に残りやすいからです。
嬉しかったこと。
怖かったこと。
恥ずかしかったこと。
こうした経験は、生きていくうえで重要だったため、脳は「これは保存しておこう」と判断します。
逆に「あとでAIに聞こう」という思いつきは、脳から見ると命に関わるほど重要ではありません。
本人にとっては大事でも、脳は意外と冷静なのです。
実は数十万年前から変わっていない
この仕組みは、人類が狩猟生活をしていた頃にはとても合理的でした。
「あの場所には猛獣がいた。」
「あの木には食べられる実がなる。」
こうした情報は命を守ります。
一方、「あとで誰かに質問しよう。」
という情報は、生き残るためにはそれほど重要ではありません。
現代ではAIに質問することも仕事の一部になっていますが、脳はまだ昔のルールで動いているのです。
AIは「第二の記憶」になる時代
最近では、思いついたことをすぐAIに送る人も増えています。
「あとで詳しく聞くからメモ。」
たった一言送るだけでも十分です。
人間はアイデアを生み出すことが得意。
AIは記録し、忘れずに保持することが得意。
どちらが優れているという話ではなく、それぞれの得意分野を活かす関係なのかもしれません。
私たちは紙のメモ帳やスマートフォンに記憶を預けるようになりました。
そして今、その預け先がAIにも広がり始めています。
忘れることは決して欠点ではありません。
人間が考えるために備わった、大切な能力なのです。
編集後記
この記事を書こうと思ったきっかけは、「チャットで聞きたいことがあったのに数秒後には忘れてしまった」という、何とも悔しい出来事でした(笑)。
でも調べてみると、それは記憶力が悪いからではなく、脳がちゃんと働いている証拠だったのです。
「人間は忘れるからこそ考えられる。」
そう思うと、少しだけ忘れっぽい自分にも優しくなれる気がします。
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