
事件は突然始まった。
ドコモの「あんしんセキュリティ」を何気なく確認していると、恐ろしい表示が出てきた。
「個人情報の流出を検知しました」
おいおい。
穏やかじゃない。
調べてみると、昔使っていたサービスからメールアドレスなどが流出した記録が見つかったらしい。
Twitterはメールアドレスのみ。
まあ、これはまだいい。
ところがDropboxを見てみると、
「一緒に流出した可能性がある情報:パスワード」
……パスワード!?
これはまずい。
Dropboxには仕事関係のデータも入っている。
慌ててDropboxのセキュリティ画面を確認してみた。
すると、そこにはさらに恐ろしいものが待っていた。
東京から謎のアクセス
Dropboxに接続されているデバイスを確認していると、一台だけ妙なものがある。
DESKTOP-C8LV84T
場所は、
Tokyo, Tokyo, Japan
そして最後のアクティビティは、
約1日前。
……昨日!?
私は名古屋にいる。
東京なんか行っていない。
しかも「DESKTOP-C8LV84T」なんてパソコン、知らない。
パスワードが漏洩している。
知らないパソコンがある。
東京から昨日アクセスされている。
すべての点が一本の線につながっていく。
やられた。
誰かがDropboxに侵入している。
しかも恐ろしいことに、Dropboxは2段階認証まで有効にしてある。
パスワードだけでは入れないはずなのだ。
いったいどうやって突破した!?
謎は深まるばかりである。
怪しい端末を削除する
とりあえず、こんな端末を放置しておくわけにはいかない。
Dropboxから「DESKTOP-C8LV84T」のリンクを解除した。
これでひとまず侵入者は追い出した。
あとはパスワードを変更して、ほかに怪しいアクセスがないか確認する。
……その前に。
念のため、自分が使っているパソコンの名前も確認しておこう。
Windowsの設定画面を開く。
そこにはこう書いてあった。
DESKTOP-C8LV84T
……。
…………。
俺じゃねえか。
しかも機種名まで、
Dell G15 5511
間違いない。
私のノートパソコンである。
ノートなのにDESKTOPって何だよ!!
ここで新たな怒りが湧いてくる。
お前、ノートパソコンじゃねえか!!
なぜ「DESKTOP-C8LV84T」などと名乗っているのだ。
実はWindowsでは、初期設定時などに
DESKTOP-XXXXXXXX
という形式のコンピューター名が自動的につけられることがある。
ここでいうDESKTOPは、必ずしも「デスクトップ型パソコン」を意味しているわけではない。
そんなことは知らない。
完全に謎のデスクトップPCだと思っていた。
しかし、これで端末の謎は解けた。
では、もう一つ。
なぜ名古屋にある私のノートPCが、東京にいたことになっているのか?
そこで思い当たるものがあった。
Speedify。
仕事でライブ配信をするとき、私はSpeedifyを使って複数回線をボンディングしている。
SpeedifyはVPNとして動作するため、通信は直接Dropboxへ届くわけではない。
ざっくり言えば、
名古屋のPC
↓
Speedify
↓
東京などにあるVPNサーバー
↓
Dropbox
という経路になることがある。
するとDropboxから見えるアクセス元は、
「名古屋にいる私」
ではなく、
「東京にあるVPNの出口」
になる。
つまり――
東京からDropboxにアクセスした謎の人物。
その正体は、
名古屋にいる私だった。
パスワード漏洩は本物だった
ただし、ここで話を全部笑い話にしてはいけない。
Dropboxの古いパスワードが漏洩した可能性があるという話は別件である。
こちらは念のため新しいパスワードへ変更した。
つまり今回の事件には、まったく別の二つの出来事が存在していた。
「昔のDropboxパスワードが漏洩した可能性」
そして、
「東京から見知らぬ端末がアクセスしているように見えた」
この二つが偶然同時に見つかった。
だから頭の中で、
パスワード漏洩
+
東京から謎のアクセス
+
知らないDESKTOP
=
何者かがDropboxに侵入した!!
という完璧なストーリーが完成してしまったのである。
しかし実際には、
パスワード漏洩 → 本当に注意が必要
謎のDESKTOP → 自分のDell
東京からのアクセス → Speedify経由だった可能性が高い
だった。
事実はすべて正しかった。
間違っていたのは、それらをつないだ私の解釈だった。
セキュリティ履歴の「場所」は現在地とは限らない
今回、ひとつ勉強になった。
GoogleやDropboxなどのセキュリティ画面に表示される「アクセスした場所」は、GPSでパソコンの位置を測定しているわけではない。
多くの場合、接続元のIPアドレスなどから推定されている。
VPNを利用していれば、実際にいる場所とは違う地域が表示されることもある。
だから、
「東京からアクセスされています」
と表示されたからといって、
東京に犯人がいるとは限らない。
もちろん心当たりのないアクセスなら確認した方がいい。
ただし、その前に一度考えてみよう。
VPN、使ってなかったっけ?
そして事件は解決した
パスワードを変更。
2段階認証も確認。
謎の端末の正体も判明。
東京アクセスの謎もほぼ解けた。
仕事のデータを盗み見る謎のハッカーなど、どうやら最初からいなかった。
犯人は――
自分。
トリックを仕掛けたのは――
Speedify。
そして事件をややこしくしたのは――
ノートPCなのに「DESKTOP」と名乗るWindows。
朝からとんでもないサイバー事件に巻き込まれたと思ったのだが、
蓋を開けてみれば、
名古屋にいる自分が、東京から自分のDropboxにアクセスして、自分でそれを発見して、自分で自分を追い出しただけだった。
セキュリティは大切である。
そしてもう一つ。
事件を疑う前に、自分のパソコンの名前くらい覚えておこう。
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