
「暗いからゲインを上げてください。」
映像制作の現場では当たり前のように使われるこの言葉。しかし、「なぜゲインを上げるとノイズが増えるのか?」と聞かれると、意外と説明できる人は少ないかもしれません。
今回は、映像制作スタッフなら知っておきたい「S/N比(エス・エヌ比)」の基本と、最近のカメラが高感度でも綺麗な理由について解説します。
光はまず電気信号になる
ビデオカメラの内部では、次のような流れで映像が作られています。
被写体
↓
レンズ
↓
撮像素子(CMOS)
↓
電気信号へ変換
↓
増幅(ゲイン)
↓
画像処理
↓
映像として記録
撮像素子(CMOS)は、レンズから入ってきた光を受け取り、それを電気信号へと変換しています。
つまり、カメラは「光」をそのまま記録しているのではなく、一度「電気」に変換してから映像を作っているのです。
実はノイズも一緒に発生している
ところが、この電気信号には必ずノイズが混ざります。
例えば、本来取り込みたい信号が1000だとすると、
信号 1000
ノイズ 20
のような状態になります。
ここで重要なのが、
Signal(シグナル・信号)
と
Noise(ノイズ)
の比率です。
これを
S/N比(Signal to Noise Ratio)
と呼びます。
S/N比が高いほど、ノイズが少なく綺麗な映像になります。
暗い場所では何が起きる?
暗い場所では、そもそも撮像素子に届く光が少なくなります。
すると、
信号 100
ノイズ 20
のようになります。
ノイズの量はあまり変わらないのに、信号だけが少なくなるため、ノイズが目立ちやすくなるのです。
ゲインを上げるとは?
では、ゲインを上げると何が起こるのでしょうか。
例えば、
信号 100
ノイズ 20
だったものを増幅すると、
信号 1000
ノイズ 200
になります。
ここで大切なのは、
信号だけを増やしているわけではない
ということです。
電気信号を増幅しているため、ノイズも一緒に大きくなってしまいます。
これが、「ゲインを上げるとノイズが増える」
と言われる理由です。
最近のカメラはなぜ高感度でも綺麗なの?
「昔のカメラはザラザラだったのに、最近のカメラは+9dBくらいなら気にならない。」
そう感じたことはありませんか?
これは一つの技術だけではなく、実は複数の技術が同時に進歩した結果なのです。
① 撮像素子そのものが進化した
現在のCMOSセンサーは、
- 光をより多く集められる
- 回路のノイズが少ない
- 読み出し性能が向上
など、大幅に進化しています。
つまり、最初からS/N比が良くなっています。
② 光を効率よく利用できるようになった
センサー表面には小さなマイクロレンズがあり、光を効率よく集めています。
同じ暗さでも昔より多くの光を取り込めるため、信号そのものが強くなっています。
③ 増幅回路も高性能になった
ゲインを上げるための回路(アンプ)も昔より大幅に進化しています。
余計なノイズを発生させにくくなり、高感度でも画質を維持しやすくなりました。
④ 画像処理エンジンが非常に優秀
現在のカメラには高性能な画像処理エンジンが搭載されています。
メーカーによって名称は異なりますが、
- Sony:BIONZ
- Panasonic:Venus Engine
- Canon:DIGIC
などが代表例です。
これらは映像を解析し、
「これはノイズだ」
と判断した部分を自然に除去しています。
最近ではAI技術を活用したノイズリダクションも採用され、高感度撮影でも驚くほど自然な映像が得られるようになりました。
つまり「最近のカメラが綺麗」なのは全部のおかげ!
高感度性能が向上した理由は、
- センサー性能の向上
- S/N比の改善
- 光を集める能力の向上
- 増幅回路の進化
- 画像処理技術の進歩
- ノイズリダクション技術
これらすべてが積み重なった結果なのです。
どれか一つだけが優秀になったわけではありません。
それでも照明が大切な理由
「じゃあ暗くてもゲインを上げればいいじゃないか。」
と思うかもしれません。
しかし、どれだけ最新のカメラでも、
撮影時に存在しなかった情報を後から作り出すことはできません。
暗い場所では、
- 色の情報
- 細かな質感
- 階調
などが失われます。
ノイズは消せても、失われた情報を完全に戻すことはできません。
だからこそプロの現場では、
まずは十分な照明を用意し、それでも足りない場合にゲインを使う
という考え方が基本なのです。
ワンポイントアドバイス
「ゲインを上げる」のではなく、「まず光を増やす」。
最新のカメラは驚くほど高性能になりましたが、画質を決める一番大きな要素は、今も昔も撮像素子にどれだけ良い光を届けられるかです。
暗い場所で無理にゲインを上げるより、照明を少し追加するだけで、映像は驚くほど美しくなります。
それが、プロの映像制作現場で今も変わらない基本なのです。
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