
恋愛について、こんな有名な言い回しがある。
「男は別名保存、女は上書き保存」
もちろん実際の人間の心が男女できれいに分かれるわけではないけれど、昔の恋愛をどう記憶するかをパソコンの保存方法になぞらえた、なかなか秀逸な表現だと思う。
男性は昔の恋人をそれぞれ別の思い出として保存する。
「初恋.jpg」
「大学時代の恋人.jpg」
「忘れられない人.jpg」
女性は新しい恋愛が始まると、過去の恋愛を新しい恋愛で上書きしていく。
「恋人.jpg」
そんなイメージらしい。
しかし私は、Windowsのゴミ箱について調べていて気づいてしまった。
人類にはまだ、第三の保存方法が残されている。
そう。
恋愛は「ゴミ箱保存」すればいい。
ゴミ箱に捨てても、実は消えていない
Windowsでファイルをゴミ箱へ捨てる。
私たちはなんとなく「ファイルを削除した」と思っている。
しかし実際には、通常の削除ではファイルはすぐ完全消去されるわけではない。
Windowsはファイルをゴミ箱用の場所へ移し、内部では別の名前で管理する。そして「元々どこにあったファイルなのか」という情報も保存している。
だからゴミ箱の中には、
「見積.pdf」
「見積.pdf」
「見積.pdf」
なんて、普通のフォルダでは許されない同名ファイルまで共存できる。
そして必要になれば、右クリック →「元に戻す」
ができる。
……待てよ。
これ、恋愛にも使えるんじゃないか。
別れた恋愛を、無理に消さなくていい
恋愛が終わったとき、人はよく言う。
「もう忘れたほうがいいよ」
「次の恋を探そう」
「いつまでも引きずってちゃダメだよ」
しかし、そんな簡単に完全削除できたら苦労しない。
大切だった人。
一緒に笑った時間。
旅行した場所。
交わした言葉。
その人と出会ったことで変わった自分。
それらを全部消してしまわなければ、次へ進めないのだろうか。
だったらいっそ、
ゴミ箱に入れてしまえばいい。
削除はする。
でも、完全削除まではしない。
デスクトップには置かない。
毎日開くフォルダにも置かない。
目の前からはいったん消す。
だけど、
「そんなものは最初から存在しなかった」ことにはしない。
これが「恋愛ゴミ箱保存」である。
ゴミ箱なら、昔の恋愛はいくつあってもいい
別名保存では、過去の恋愛がいつまでも現役のファイルとして残り続ける。
上書き保存では、新しい恋愛によって過去を書き換えていく。
でもゴミ箱保存なら違う。
「あの人も好きだった」
「この人も大切だった」
「でも、もう終わった」
それらは矛盾せずに共存できる。
過去の恋愛を大切だったと認めることと、今はもうその恋愛を選ばないことは、同時に成立するのだ。
これは案外、大切なことなのかもしれない。
大切だったからといって、今も必要とは限らない。
だから捨てる。
でも、大切だったという事実まで消す必要はない。
そして人生には「元に戻す」もある
ここからがWindowsの恐ろしいところである。
ゴミ箱に入れたファイルには、
「元に戻す」
という機能がある。
……元カレ、元カノをゴミ箱に入れておけば、
復縁可能!!
世紀の大発明である。
深夜2時。
お酒を飲みながら、ふと昔の恋愛を思い出す。
「あの人……今どうしてるかな」
心のゴミ箱を開く。
右クリック。
[元に戻す]
……ちょっと待て。
Windowsですら、復元先の状況によってはそのまま元通りにはできない。
なぜなら、その場所にはすでに別のファイルが存在しているかもしれないからだ。
人間だって同じである。
別れてから時間が経てば、お互いに変わる。
新しい生活がある。
新しい人間関係がある。
ひょっとしたら、新しい恋人だっている。
つまり、
「元に戻す」を押したところで、元の場所が昔と同じとは限らない。
これはなかなか重要なことである。
復縁とは、過去を復元することではないのかもしれない。
もしもう一度始めるのなら、それは昔のファイルを元の場所へ戻すのではなく、
二人で新しいファイルを作ることなのだろう。
……急にWindowsが恋愛哲学を語り始めた。
いつか「ゴミ箱を空にする」日が来てもいい
そしてWindowsには、もう一つの機能がある。
「ゴミ箱を空にする」
本当にもう必要ないと思ったとき。
思い出しても胸が痛まなくなったとき。
「あの恋愛があったから今の自分がいる」と納得できたとき。
そのとき初めて、
「もう、ここに置いておかなくてもいいかな」
と思える日が来るかもしれない。
でも、それを急ぐ必要はない。
ゴミ箱に入っているからといって、パソコンは壊れない。
人生だって、たぶん同じだ。
忘れられない恋愛が一つくらい残っていたっていい。
それを毎日デスクトップに置いて、ダブルクリックし続けなければいいのだ。
恋愛は「削除」ではなく「ゴミ箱へ」
恋愛が終わったら、完全に忘れなければならない。
そんなルールはない。
大切だったことは、大切だったままでいい。
好きだったことも否定しなくていい。
ただ、
今の自分のデスクトップからは、いったん片づける。
それくらいでいいのかもしれない。
別名保存でもない。
上書き保存でもない。
第三の恋愛保存術「ゴミ箱保存」。
過去を否定せず、現在からは退場させる。
そして本当に必要なら「元に戻す」ことだってできる。
ただし、そのボタンを押す前にはよく考えよう。
Windowsなら確認画面くらいで済むが、
人間の「元に戻す」には、相手の同意が必要なのだから。
……というわけで、恋愛に悩む人類へ。
無理して忘れなくてもいい。
無理して上書きしなくてもいい。
とりあえず、
ゴミ箱に入れておこう。
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