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AIは哲学を学び始めたのか?【お役立ちコラム】

約6分

ニーチェが100年以上前に予言していた、AI時代の「解釈するカメラ」

映像の仕事をしていると、最近どうしても気になることがあります。
昔のカメラは「現実を記録する道具」でした。

ところが今のカメラやスマートフォンは違います。

人物を認識し、
空を認識し、
料理を認識し、
夜景を認識し、
「人が綺麗だと思う映像」
へとAIが加工しています。

つまり、
カメラは現実を写すのではなく、現実を解釈し始めた。

そう考えた瞬間、大学時代に芸大で聞いた哲学の講義を思い出しました。


「あるのは解釈だけ」

哲学者フリードリヒ・ニーチェには、有名な言葉があります。

「事実は存在しない。存在するのは解釈だけである。」

最初に聞いたときは、
「何を言っているんだろう?」
と思いました。

でも先生は、こんな例を話してくれました。


本当にそこにリンゴはあるのか?

机の上に赤いリンゴが置いてあります。

私たちは何の疑いもなく、
「赤いリンゴが机の上にある」
と言います。

でも少し考えてみると不思議です。

「赤い」
と思っているのは誰でしょう。

「リンゴ」
と判断しているのは誰でしょう。

「机の上」
と認識しているのは誰でしょう。

実際に目に入ってきているのは、
ただの光です。

その光を脳が
「これはリンゴだ」
「赤い」
「机の上だ」
と意味付けしているだけなのです。

つまり、
私たちは世界そのものを見ているのではなく、脳が解釈した世界を見ている。
ということになります。


人間の脳は画像処理エンジンだった

この話を思い出した瞬間、私はハッとしました!

以前、カメラの仕組みについて記事を書いたことがあります。
レンズから入った光は撮像素子に届き、
画像処理エンジンで色やノイズが補正され、
映像になります。

でも、人間も同じだったのです。

現実
 ↓
目
 ↓
脳
 ↓
「世界」

脳は、
ただ光を受け取るだけではありません。
色を判断し、
距離を判断し、
物体を認識し、
意味を付けています。

つまり、
人間の脳そのものが、世界最高性能の画像処理エンジンだった。


AIカメラも同じことを始めた

そして今のスマートフォンは、

現実
 ↓
レンズ
 ↓
撮像素子
 ↓
AI
 ↓
映像

という流れで映像を作っています。
空だと判断すると青く。
人物だと判断すると肌を綺麗に。
料理だと判断すると美味しそうに。

これはまさに、
AIが世界を解釈している
ということです。


AIは哲学を学んだから進化したの?

もちろん違います。

AIはニーチェの本を読んで
「なるほど!」
と思ったわけではありません。

でも、とても面白いことがあります。
AI研究者は、
「どうすれば人間が綺麗だと感じるのか」
を何百万枚もの画像から学習させました。

その結果、
哲学者たちが100年以上前から考えていた世界の見え方に、偶然たどり着いてしまったのです。

これが本当に面白いところです。


カントも同じようなことを言っていた

ニーチェより少し前の哲学者、イマヌエル・カントはさらに大胆でした。

彼は、

「私たちは世界そのものを見ることはできない。」

と言っています。

最初は意味が分かりません。
でも考えてみると納得します。

私たちは、
目に映った情報を脳が加工した結果しか見られません。

つまり、
「現実そのもの」ではなく、
「脳が理解できる形に変換された世界」
を見ているのです。


「人間の脳は現実を録画していない」

以前、記憶色について調べたとき、
とても印象的な言葉に出会いました。

人間の脳は現実を録画していない。

私たちの記憶は、
ビデオカメラのように保存されているわけではありません。

感情や思い出と一緒に、
毎回「再構築」されています。

だから、
「あの日の空は真っ青だった」
と思っていても、
実際の写真を見ると少し違うことがあります。

でも、その記憶は間違いではありません。

それは、
その日に感じた感動まで含めた『解釈』
だからです。


AIは人間になったのか?

ここで一つ思うことがあります。

最近、「AIは人間らしくなった」
と言われます。

私は少し違う気がしています。
AIが人間になったのではありません。

AIが、人間の『世界の見方』を学び始めた。

昔のコンピュータは計算しかできませんでした。

しかし今は、
人間が
「綺麗」
「美味しそう」
「自然」
と思う感覚まで学習しています。

つまり、
世界を解釈する能力を身につけ始めたのです。


でも、人間だけが持っているもの

とはいえ、
AIにはまだできないことがあります。

例えば夕焼けを見て、
「あの日、家族と見た夕焼けだ。」
と思うこと。

そこには
匂いがあり、
気温があり、
会話があり、
人生があります。

AIは空を青くできます。
夕焼けを美しく描くこともできます。

でも、
その景色が人生にどんな意味を持っていたのか
までは、まだ知りません。


最後に

哲学の講義では、
「あるのは解釈だけ」
という言葉が、正直よく分かりませんでした。

でもAIが世界を「解釈」する時代になった今、ようやくその意味が少し見えてきた気がします。
映像は光を記録するもの。

そう思っていました。

しかし本当は、人間もAIも、
世界をそのまま見ているのではなく、
それぞれの方法で『解釈』して見ている。

そう考えると、最新のAI技術は、100年以上前の哲学者たちが問い続けたテーマに、別の形で近づいているのかもしれません。

そして私は、映像の仕事をしている今だからこそ、こんな問いを自分に投げかけたくなります。

カメラは現実を撮る道具なのか。

それとも、人間の「世界の見方」を映し出す鏡なのか。


編集後記

映像技術と哲学。
一見するとまったく関係のない世界に思えます。

でも、最新のAIカメラを調べているうちに、大学時代に聞いたニーチェやカントの講義が、20年近く経って突然つながりました。

技術は未来へ進んでいます。

しかし、人間とは何か、世界とは何かという問いは、昔から変わっていません。
そう考えると、AIの進化を一番驚いて見ているのは、案外100年以上前の哲学者たちなのかもしれません。


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