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暇人の学問が、世界最先端の技術へ【お役立ちコラム】

約6分

AIは工学を、再び哲学へ連れ戻した。

大学時代、哲学の最初の講義で先生が笑いながらこんなことを言いました。

「哲学は暇人がするものだ。」

もちろん悪口ではありません。
昔の人々は、生きるだけで精一杯でした。
食べ物を探し、家を建て、寒さをしのぐ。

そんな毎日の中では、
「世界とは何か。」
「人間とは何か。」
そんなことを考えている余裕はありません。

だから哲学は、生活に少し余裕が生まれた人々によって始まった学問だというのです。

当時の私は、
「なるほど。」
と思っただけで、それ以上深く考えることはありませんでした。


哲学は役に立たない学問?

哲学はよく、
「役に立たない学問」
と言われます。

確かに、
哲学を学んだからパソコンが速くなるわけでもありません。

カメラが綺麗に撮れるわけでもありません。
仕事が効率化されるわけでもありません。

だから、
「そんなこと考えて何になるの?」
と言われることもあります。

でも哲学は、
便利な答えを教えてくれる学問ではありません。

哲学とは、
「そもそも」を考える学問なのです。


「世界とは何か」

哲学者たちは何千年も前から、
こんな問いを考えてきました。

世界とは何か。

人間とは何か。

知るとは何か。

理解するとは何か。

見るとは何か。

正直、学生の頃は
「難しいことを考える人たちだなあ。」
くらいにしか思っていませんでした。


そして時代はAIへ

それから20年以上。
私は映像制作の仕事をするようになりました。

最近はカメラやスマートフォンにAIが搭載され、
写真や映像は驚くほど綺麗になっています。

人物を認識し、
空を認識し、
料理を認識し、
夜景を認識し、
AIが「人間が綺麗だと思う映像」
へと加工しています。

ここで、ふと思いました。

これは、
AIが世界を解釈している
ということではないだろうか。


「あるのは解釈だけ」

そこで思い出したのが、大学の哲学の講義でした。

哲学者ニーチェには、

「事実は存在しない。存在するのは解釈だけである。」

という思想があります。

人間は世界をそのまま見ているのではなく、
脳が意味を与えた世界を見ている。

例えばリンゴ。

目に入ってくるのは光です。

脳が
「これはリンゴだ。」
「赤い。」
「机の上にある。」
と意味を付けています。

つまり、
人間は世界を解釈して生きている。


AIも世界を解釈し始めた

驚いたのはここからでした。
AIカメラも同じことをしています。

撮像素子に届いた光を、
AIが
「空」
「人物」
「料理」
「夕焼け」
と判断し、
人間が美しいと感じる映像へ仕上げています。

つまり、
AIもまた世界を解釈している。


工学が哲学に追いついた

ここで鳥肌が立ちました。

世界中のトップエンジニアたちは、
AIを作るために
「人間はどうやって世界を認識しているのか」
を研究しています。

でも、それって……

何千年も前から哲学者が考えてきたテーマではないでしょうか。

哲学者は、
「人間とは何か。」
を考えてきました。

AI研究者は、
「人間らしさとは何か。」
を工学で再現しようとしています。

入口は違います。

でも歩き続けた結果、
同じ場所へたどり着いている。
その瞬間、私は思いました。

工学が哲学に追いついてきた。


いや、哲学へ帰ってきたのかもしれない

さらに調べてみると、
もっと面白いことが分かりました。

昔は、
数学も、
物理学も、
情報工学も、
すべて哲学の中にありました。

だから今でも博士号は
Ph.D.
正式には
Doctor of Philosophy(哲学博士)
です。

つまり、
世界を理解しようとする学問は、
もともと全部「哲学」だったのです。

そう考えると、
AIは哲学へ近づいたのではありません。

一度専門分化した工学が、長い旅を経て哲学という故郷へ帰ってきた。

そんな見方もできる気がします。


哲学は未来の学問だった

大学時代、
「哲学は暇人がするものだ。」
そう聞いて笑っていました。

でも今は少し違います。
人類はAIという新しい知性を作ろうとして、
結局また、
「知るとは何か。」
「理解とは何か。」
「人間とは何か。」
という何千年も前の問いへ戻ってきました。

一見すると役に立たない学問。

しかしその問いは、
最先端のAI研究の中心にありました。


最後に

映像の画像処理を調べていたはずでした。

それが気づけば、
ニーチェを思い出し、
カントを思い出し、
大学時代の哲学の講義へ戻っていました。

そして、その哲学が世界最先端のAIと一本の線でつながった瞬間、
私は久しぶりに心からワクワクしました。
技術は未来へ進みます。

でも、その未来の最前線で語られているのは、
何千年も前から人類が問い続けてきた
「人間とは何か。」
という、とても古くて、とても新しいテーマなのです。


編集後記

昔、先生が「哲学は暇人がするものだ」と笑って話していました。

当時はその意味がよく分かりませんでした。
しかし20年以上経った今、AIの進化を見ていると、その言葉の本当の重みを感じます。

便利さを追い求めてきた工学は、最後に「人間とは何か」という問いへたどり着きました。
もしかすると哲学とは、「役に立たない学問」だったのではなく、答えが出るまでに数千年かかる学問だったのかもしれません。


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