
私は、話題のカフェとかに並んでいる人を見ると、ちょっと腹が立つ。
いや、ちょっとではない。
鳥のフンでも落ちればいいのにと思う。
もちろん、本気で不幸になってほしいわけではない。
鳥のフンくらいでいい。
肩にポトッと。
「あぁぁ……今日この服おろしたばっかりなのに……」
くらいの、小さな理不尽に見舞われてほしい。
なぜ私は、見ず知らずのカフェの行列にここまで腹を立てているのだろう。
冷静に考えれば、私には何の関係もない。
彼らが30分並ぼうが、1時間並ぼうが自由だ。
それなのに、行列を見るたびに思う。
なんで並ぶの!?
コーヒーを飲みたいなら、空いている店に行けばいい
私の考え方は単純だ。
コーヒーが飲みたい。
だったらカフェに入る。
ゆっくりしたい。
だったら空いている店を探す。
美味しいコーヒーが飲みたい。
だったら自分の好きな店に行く。
ところが人気店になると話が変わる。
店の前に20人並んでいる。
それでも並ぶ。
30分待つ。
ようやく入店する。
店内も混んでいる。
……落ち着かないじゃん!!
「カフェでゆっくりしたい」という目的だったはずなのに、その目的を達成するための行動として、ものすごく効率が悪い。
もちろん、
「私はこの店のコーヒーが本当に好きなんです!」
という人なら分かる。
その味が好きだから並ぶ。
「あそこのチーズケーキじゃなきゃダメなんです!」
それも分かる。
むしろそこまで好きなら、存分に並んでほしい。
私がモヤモヤしていたのは、どうやら別のところだった。
「人気だから行く」が、どうにも気に入らない
人気だから。
SNSで話題だから。
みんな行っているから。
行列ができているから。
評価が高いから。
そういう理由で店を選んでいるように見える人たちに、私は妙な腹立たしさを感じていた。
なぜだろう。
そして、ふと気づいた。
私は行列が嫌いなのではない。
他人の評価に「価値判断」まで委ねているように見えることが嫌なのだ。
これだ。
ものすごく納得した。
他人の評価は「情報」であって、「答え」ではない
「あの店、美味しいよ」
という口コミはありがたい。
レビューも便利だ。
人気ランキングだって、新しい店を探すきっかけになる。
つまり他人の評価は、とても有益な情報だ。
でも、
「みんなが美味しいと言っている」
と、
「だから私はこれを美味しいと思うべきだ」
は、まったく別の話だ。
他人の評価を情報として使うのと、他人の評価に自分の価値判断まで任せてしまうのは違う。
評価4.8の店より、近所の誰も知らない喫茶店のコーヒーのほうが好きかもしれない。
有名なスイーツより、スーパーで売っている100円のお菓子のほうが好きかもしれない。
それでいい。
だって、
「私はこれが好きだ」
という判断だけは、自分にしかできないのだから。
行列は「価値があるように見える装置」でもある
しかも行列というものは面白い。
人が並んでいる。
すると、
「こんなに並んでいるんだから、きっと美味しいんだろう」
と思う。
だから自分も並ぶ。
すると行列がさらに長くなる。
それを見た別の人が、
「うわ、めちゃくちゃ人気じゃん!」
と並ぶ。
つまり行列は、
人気の結果であると同時に、人気を作り出す装置でもある。
誰かが価値を感じた。
人が集まった。
人が集まっていること自体が「価値の証明」に見え始めた。
そして、さらに人が集まる。
そう考えると、私はますます言いたくなる。
お前はそのコーヒーが飲みたいのか!?
それとも、そのコーヒーを飲んでいる自分になりたいのか!?
「自分の目的」で店を選んでいるか
結局、私が気に入らなかったのはここなのだと思う。
自分の目的を達成するために店を選んでいるのではなく、他人から価値があると評価されている店を選んでいるように見える。
コーヒーが飲みたいなら、自分が美味しいと思う店へ行けばいい。
休みたいなら、空いている店へ行けばいい。
写真を撮りたいなら、写真映えする店へ行けばいい。
そして、
「人気店に行ったという体験が欲しい」
なら、それだって立派な目的だ。
それなら胸を張って並べばいい。
大切なのは、
「私は何を求めて、ここを選んだのか」
を自分で分かっていることなのだと思う。
自分の人生の価値判断くらい、自分でやりたい
考えてみれば、これはカフェだけの話ではない。
映画もそう。
音楽もそう。
服もそう。
仕事もそう。
生き方だってそうだ。
世間で評価されているから。
みんながそうしているから。
成功者がそう言っているから。
普通はこうだから。
そうやって他人の評価を参考にしているうちに、いつの間にか、
「自分はどう思うのか」
という一番大切な判断まで、外に預けてしまうことがある。
他人の評価は使えばいい。
ランキングも見ればいい。
口コミだって読めばいい。
でも最後くらいは、
「私はこれが好き」
「私はこっちを選ぶ」
と、自分で決めたい。
評価4.9の人気店より、評価3.7の空いている喫茶店で飲むコーヒーのほうが、自分には美味しいかもしれない。
それなら私は、そっちへ行く。
他人がどう評価するかではなく、
自分がどう世界を味わったのか。
その判断くらい、自分の手元に残しておきたい。
だから今日も私は、人気カフェの前にできた長い行列を横目に、空いている店へ入る。
誰も並んでいない。
静かだ。
すぐ座れる。
コーヒーが出てくる。
うん。
これでいい。
私はこれが好きだ。
そして窓の外を見る。
さっきの行列はまだ続いている。
空には鳥が飛んでいる。
私は思う。
他人の価値観に依存するのも、その人の自由だ。
もちろん尊重しよう。
人にはそれぞれの生き方がある。
だからもう、腹を立てる必要なんてない。
ただ――
鳥よ。あとはお前の価値判断に任せた。
翌朝、車を見た。
私の車にフンが落ちていた。
……なるほど。
鳥もまた、他人の価値判断に依存しなかったらしい。
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