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芸術の始まりは「祈り」だった──歌や踊りが生まれた日の話【お役立ちコラム】

約4分

歌はいつ生まれたのだろう。
踊りは、誰が最初に踊ったのだろう。

そんな問いに、誰も確かな答えを持ってはいない。
文字が生まれるはるか昔のことだからだ。

だからこそ、この問いにはいくつもの説がある。

音で遊んでいるうちに歌になったという説。
作業の掛け声が発展したという説。
言葉になる前のコミュニケーションだったという説。

どれも十分にあり得る話だ。

しかし、その中でも私が好きなのは、「歌や踊りの始まりは祈りだった」という考え方である。

もちろん、これは証明された事実ではない。
それでも、不思議なくらい人の心にしっくりくる。


例えば、雨が何日も降らない時代。
科学も天気予報もない。
人は空を見上げ、雨を願うしかなかった。

その願いを言葉だけでは伝えきれず、太鼓を叩き、声を合わせ、身体を動かした。

豊作を願う。
無事を願う。
病気が治ることを願う。
亡くなった人の安らぎを願う。

そこには、音楽を「楽しむ」というより、「届けたい」という思いがあったのではないだろうか。
音は願いを運び、踊りは心を表す。

もしそうだとしたら、歌や踊りは娯楽としてではなく、人間の切実な願いから生まれたことになる。


世界を見渡すと、この考えを思わせる文化は今も数多く残っている。

雨乞いの踊り。
神楽。
田植え歌。
祭りのお囃子。

どれも「見せる」ことより、「祈る」ことが先にある。

そして、日本の文化を見ても、「道」と呼ばれるものの多くは、どこか祈りに似ている。

茶道。
香道。
書道。
武道。

技術を競うだけではなく、心を整え、自分と向き合い、相手を敬う。
その姿勢は、何かを願いながら歌い、踊った人々とどこか重なって見える。


現代では、歌も踊りもエンターテインメントになった。
ライブで盛り上がり、ダンスで自己表現をする。
それも素晴らしい文化だ。

しかし、その奥深くには、今も昔と変わらないものが残っている気がする。

卒業式で校歌を歌う。
結婚式で祝福の拍手を送る。
スポーツの応援歌をみんなで歌う。
震災の復興を願って歌う。
誰かの幸せを願って踊る。

そこには、「誰かと心を一つにしたい」という、人間の根源的な願いが息づいている。


歌や踊りの始まりが、本当に祈りだったのか。
それは誰にも分からない。

けれど、この説には、人間という存在を少しだけ優しく見せてくれる力がある。

もし芸術の始まりが祈りだったのなら、人類が最初に生み出した芸術は、自分のためではなかった。
誰かの幸せを願い。
未来を願い。
世界が少しでも良くなることを願って。
人は歌い、踊り始めたのかもしれない。

そう思うと、何千年も受け継がれてきた一曲一曲、一歩一歩が、少しだけ愛おしく感じられるのである。


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