
データ化して初めて分かった「記録される範囲」と「上映される範囲」の違い」
先日、昔のSingle-8(シングル8)フィルムをデータ化する作業をしていたときのことです。
取り込まれた映像を確認していて、ふと気になることがありました。
「あれ? フィルムの1コマって、きれいな4:3の四角形じゃない……?」
しかもよく見ると、フィルムを送るための穴「パーフォレーション」のすぐ近くまで映像が記録されています。
8mmフィルムといえば、昔のテレビと同じような「4:3の四角い映像」が1コマずつ並んでいるものだと、なんとなく思っていました。
ところが実際のフィルムを見ると、どうもそう単純ではありません。
調べてみると、フィルムの世界では、
「フィルムに記録されている範囲」と「実際に観客が見る範囲」は必ずしも同じではない
ということが分かりました。
今回は、デジタル映像に慣れていると意外と知らない「フィルムの画面」の仕組みについて紹介します。
デジタル映像は最初から「四角い画面」
現在の映像は、基本的に最初から画面の大きさが決まっています。
例えばフルHDなら、
1920×1080ピクセル・16:9
です。
映像ファイルを開けば、左上から右下まできれいな長方形の映像として表示されます。
そのため私たちは、
「記録されている映像=完成した四角い画面」
という感覚に慣れています。
ところが、フィルムは少し考え方が違います。
フィルムは「物理的な帯」に映像を記録している
フィルムは、デジタルデータではありません。
細長いフィルムの帯に光を当て、化学的に映像を記録しています。
そしてフィルムには、映像だけでなく、フィルムを一定量ずつ送るための穴があります。
これが、「パーフォレーション」と呼ばれるものです。
8mmフィルムをスキャンすると、このパーフォレーションの近くまで映像が存在していることがあります。
つまりフィルムそのものを見ると、
「ここからここまでがテレビ画面ですよ」
というような、デジタル映像のように分かりやすい四角い境界があるわけではないのです。
撮影された範囲を全部上映していたわけではない
ここが今回、一番面白いと感じたところです。
カメラでフィルムに記録された映像は、そのすべてがそのままスクリーンに映されていたわけではありません。
映写機には、「アパーチャー」と呼ばれる、
映像を見せる範囲を決める開口部があります。
簡単にいえば、
フィルムに記録されている映像の中から、必要な部分だけを四角く切り取ってスクリーンへ投影する
という仕組みです。
そのため、
撮影された範囲 > 実際に上映される範囲
となることがあります。
フィルムに何かが写っているからといって、それが当時スクリーンでも見えていたとは限らないわけです。
どうして余分なところまで記録するの?
「だったら最初から上映するところだけ撮ればいいのでは?」
と思いますよね。
しかしフィルムは、カメラ、フィルム、映写機など、すべて物理的な機構で動いています。
フィルムの位置がほんの少しずれたり、映写機によって見える範囲に多少違いが出たりすることもあります。
そこで、撮影された映像のギリギリまで観客に見せるのではなく、周囲にある程度の余裕を持たせておき、上映時には安定した範囲だけを見せるという考え方が使われます。
これは現在の映像制作でいう「セーフエリア」にも、少し通じるところがあります。
「8mmフィルムは4:3」というのは間違い?
では、
「8mmフィルムは4:3」
という認識は間違っているのでしょうか?
これは、そういうわけではありません。
一般的な8mm映画では、上映される映像はおおむね4:3に近い画面として扱われます。
重要なのは、
フィルムそのものに4:3のデジタル画像が記録されているわけではない
ということです。
物理的なフィルム上に記録された映像の中から、上映時に必要な範囲を見せることで、私たちが知っている「映画の画面」になります。
現代のフィルムスキャンでは「昔は見えなかった部分」まで見える
そして面白いのが、現在のフィルムデータ化です。
昔の映写機ではアパーチャーによって隠されていた周辺部分も、フィルムスキャナーなら取り込める場合があります。
そのためスキャンしたデータを見ると、
パーフォレーションの近くまで映像がある
という不思議な状態を見ることがあります。
しかし、これは異常ではありません。
むしろ、
「フィルムにはここまで記録されていたけれど、昔の上映ではここまで見せていなかった」
ということなのです。
ある意味、現代のフィルムスキャンによって、当時の観客が見ることのできなかった「画面の外側」が見えるようになったともいえます。
データ化するときは「全部見せれば正解」とは限らない
ここは、私たちのようにフィルムをデータ化する側にとって重要なポイントです。
スキャナーで取り込める範囲が広いからといって、
取り込まれたものを全部そのまま納品すれば最も忠実
とは限りません。
パーフォレーションや、本来上映されない周辺部分まで映っている状態は、「フィルムそのものを記録する」という意味では忠実です。
しかし、
「当時そのフィルムを映写機で見ていた映像を再現する」
という目的なら、適切な範囲をクロップして見せる方が本来の鑑賞体験に近くなります。
つまりフィルムのデータ化には、
① フィルムに存在する情報をできるだけ残す
という考え方と、
② 当時上映されていた画面を再現する
という、少し違った考え方があるわけです。
保存用のマスターでは広めに残し、視聴用データでは適切な画角に整える、といった方法も考えられます。
デジタル映像とは「画面」の考え方そのものが違う
今回Single-8をデータ化していて一番興味深かったのは、単純な解像度や画質の違いではありませんでした。
それは、
フィルムとデジタルでは「画面とは何か」という考え方そのものが少し違う
ということです。
デジタル映像では、1920×1080なら、その1920×1080が映像です。
一方フィルムでは、
物理的なフィルムに記録された像があり、その中から上映する範囲を決めてスクリーンに映す。
普段何気なく見ている「四角い映像」は、実はフィルムに最初から存在していた四角ではなく、カメラや映写機などの仕組みによって作られた「見せるための画面」でもあったのです。
まとめ
8mmフィルムをデータ化して初めて、
「フィルムって、こんなところまで映っていたの?」
ということに気付きました。
映像制作の仕事をしていても、現在のデジタル機材を扱っているだけでは、昔のフィルムの仕組みを実際に見る機会はなかなかありません。
今回分かったことをまとめると、
- フィルムに記録される範囲と上映される範囲は同じとは限らない
- フィルムにはパーフォレーションの近くまで像が記録されることがある
- 映写機ではアパーチャーによって必要な範囲を切り取って上映する
- 「8mm=4:3」は主に上映される画面についての考え方
- 現代のスキャナーでは、昔の上映では見えなかった周辺部分まで取り込める場合がある
- データ化では「フィルム全体を残す」のか「当時の上映画面を再現する」のかを考える必要がある
ということになります。
デジタル映像では当たり前になった「きれいな長方形の画面」。
その感覚で昔のフィルムを覗いてみると、意外な発見がたくさんあります。
フィルムは単なる昔の映像記録媒体ではなく、撮影・現像・送り機構・映写まで含めて初めて「映像」になる仕組みだった。
実物をデータ化してみると、映像技術の歴史の面白さを改めて感じます。
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